~時計の修理に使う道具について②~

こんばんは、ウォッチコンシュルジュ阿部です。

時計の修理を行うために、私たち時計修理技能士は

多種多様な道具を用います。

時計が好きな方の中には、機械自体に興味がある方も少なくないと思います。

自分の時計をちょっと弄ってみたい、そんな方々の参考になればと

毎月一つずつピックアップしてご紹介していきます。

 

【精密ドライバー】

時計部品の組み立てや固定には大小様々なネジを用いています。

1つの時計で少なくとも5種類以上のサイズのドライバーを使用します。

材質は主に炭素鋼で焼きによって硬さを変えています。

時計修理に従事する者にとってドライバーはピンセットと共に

主要な道具の一つになります

今回は時計修理に於けるドライバーの種類と使用方法等をご紹介していきます。

 

 

「マイナスドライバーである理由」

まず時計に使用しているネジの殆どは溝がマイナスの形状です。

では、なぜ時計のネジはマイナスの形状なのでしょうか。

理由は一つ「美しさ」に尽きると思います。

他の文献等でも多く挙げられている理由で納得です。

 

※画像はブルースティールを多用したムーヴメント

 

時計は実用品としてもそうですが、装飾・美術品としての役割も多分にあります。

組立後、修理後も共に変わらない美しさを維持できる作りでなければいけません。

 

その為の重要な点として、最も重要なのが加工のしやすさです。

私たち時計修理技能士はネジの作製もします。

たった一個のネジの頭を切る作業ですらプラスのネジの場合、

加工に時間と手間がかかりすぎます。

それに合わせてドライバーも加工するとなると相当な手間です。

 

勿論先端がプラスの方が力の伝わりが容易いことは一目瞭然です。

しかし、先人達がいかに早く美しく時計を完成させようかと

試行錯誤した結果がマイナス形状であり、

腕時計の誕生から2世紀以上たった今も

使い続けられている理由だと身をもって感じています。

 

 

「手入れ・調整」

使用を繰り返すうちにドライバーの先端は欠けたり、変形したりします。

私たちはそうなった時、瞬時に調整をして作業に戻らなくてはなりません。

スペアを用意するもの一つの手ですが、ここはマイナスドライバーの

利点を生かしましょう。

 

※画像は先端の欠けたものです

 

※スリ台と砥石を使って整形・調整します。

 

※整形後は横一直線にスリ跡が入り、面が平らに出ています。
※スリ跡の長さは直径の約1.5倍弱程度が望ましいです。

 

※角度も均等に付けます。

 

※見にくいですが、先端は均等な厚み幅にしてあります。

 

 

ドライバーの歯が欠けたままでは、次に触るネジを傷つけてしまいます。

もし、青焼きのネジや貴金属で出来たそれであった場合、

再加工が容易ではありません。

修理技能士は常にドライバーの先端には細心の注意を払っています。

※画像は幅の合わないドライバーで弄ったため、ネジの両サイドが開いてしまったもの。

 

 

私は以前修理会社で働いていたことがあり、そこでは様々なブランドのムーヴメントを担当していました。

メーカーやムーヴメントによってネジの規格が変わる為

同じ太さのドライバーでも3~4本常に用意していました。

毎回調整する事無く素早く作業をするために

その先端は溝の幅によって厚みを変えて用意しているのです。

 

 

「形状」

現在では、メーカーが工夫を凝らし、様々なネジが出ています。

デザイン性と容易に開閉されないための防御策として。

専用の工具でないと対応出来ないものをいくつかご紹介します。

 

※ウブロのベゼルネジはブランドのアイコニックなH型をしています。

 

※画像左→ケースは5つ又と複雑な形状で、開閉が出来なくなっています。

※画像右→ベルト取り付けネジは4つ又で専用工具があります

 

※アクアノウティック用
画像左→ベゼル交換用
画像右→ブレスレット交換用

今回はドライバーのご紹介でした。

次の機会にはまたちょっと変わった道具をご紹介できたらと思います。

 

 

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